グレッチ、繁栄と衰退の歴史

グレッチギター

グレッチ(Gretsch)とはアメリカの楽器メーカー。エレクトリック・ギターを中心にベース、ドラムなどを生産しています。

ギター

販売される多くのギターモデルは日本を含む東アジア製なものの、一部のモデルはアメリカ合衆国産の「カスタムショップ・モデル」が存在します。2003年にはフェンダーとの業務提携を締結。この契約は創設者の孫のフレッド・グレッチ3世がグレッチブランドの権利を保有しつつ楽器の開発、生産、販売はフェンダーが行うというものであり、2021年現在も会社の権利はフェンダー家が所持しています。

ドラム

グレッチは創設時からドラムを製造しており、多くのドラマーに使用されています。2000年にグレッチはカマンミュージックと契約を締結。グレッチUSAカスタムドラムとシグネチャードラムを製造する権利を与えられたカマンミュージックはGretschドラムを作るために使用される機器の大部分を購入することによって安定した生産に成功。2017年にはアメリカのドラムメーカー、ドラムワークショップが製造および国際展開する最王手になったことがロンバルディファミリーから発表されました。

グレッチの歴史

創業

グレッチは27歳でドイツから渡米した創業者、フレデリック・グレッチ(Frederick Gretsch)によって1883年にニューヨークのブルックリンで創業。15歳の息子のフレッド・グレッチ(Fred Gretsch)に引き継がれるまでの12年間はタンバリン、バンジョー、ドラムなどを製造していました。1895年にフレデリックが亡くなった後、楽器の輸入事業とギター製造によって楽器事業の拡大に成功したフレッド・グレッチはブルックリンのブロードウェイに本社を移転しました。当時のギターはジャズ向けアーチトップ・ギターとカントリーウエスタン向けのフラットトップ・ギターがメインとなっており、エレクトリック・ギターは生産していませんでした。

・1940年~1950年代

1942年にフレッドが引退。息子のフレッド・グレッチ・ジュニアに引き継がれましたが、引き継いだ直後に第二次世界大戦へ海軍士官として奉公するために退社。フレッド・グレッチ・ジュニアの兄弟、ウィリアム・ウォルター・グレッチに委ねられました。1948年にはウィリアムが死去し、ふたたびフレッド・グレッチ・ジュニアによって運営されるようになったグレッチは最盛期を迎えます。1950年半ばにグレッチを代表するギター、6120モデルや世界一美しいギターと呼ばれたホワイトファルコンなどさまざまな名作を販売。また、当時流行していたカントリーミュージシャン、チェット・アトキンスが同社のギター、カントリージェントルマンを使用したことも影響し、ギブソンやフェンダーと並ぶ認知度のメーカーとなりました。

・1960年代

1960年代後半に入るとフェンダー、ギブソンの2社がエレクトリック・ギター業界を大きく二分するようになり業績が低迷。1967年にはアメリカ合衆国のピアノブランド、ボールドウィン・ピアノに買収されてグレッチの楽器製造事業はブルックリンからアーカンソー州のデクイーンへ移転されました。更に4年後の1973年にデクイーンの工場が2度に渡り火災が発生し、ボールドウィン・ピアノはグレッチのギター製造を中止を決断。1980年代初頭までギターの生産が停止するに至りました。

・1980年代

1983年に親会社であるボールドウィン・ピアノが経営不振により破産。ピアノの事業は本社に売却され、グレッチを含む多くの事業の売却、破産申請が行われました。翌年、1984年にボールド・ウィンの元CEOであるリチャード・ハリソンによってグレッチの音楽事業が買収され、グレッチの元従業員であるデューク・クレイマーにグレッチ部門の運営権が渡されました。1985年にフレッド・グレッチ・ジュニアの甥であるフレッド・W・グレッチが社長に就任。グレッチは再びグレッチ家によって運営されるようになりました。グレッチ家で運営されるようになったグレッチ社は記念となるモデル、トラベリング・ウィルベリーズモデルを1988年にリリース。翌年の1989年には過去に発売したギターをベースにしたクラシックなエレクトリック・ギターの中心に大量生産に乗り出しました。

・2000年以降

2003年にはグレッチ家が会社の所有権を維持しつつも、フェンダーがギターのマーケティング、製造、流通を管理することを条件にフェンダーのの傘下となる契約、FMICに合意しました。

代表的なモデル

Gretsch6120

Gretsch6120はグレッチを象徴するモデル。1955年の発売時は385ドルで発売されており、チェット・アトキンスモデルの初期はサボテンや牛の頭が描かれたポジションブロックなどカントリーを意識した装飾が施されていました。1958年にチェット・アトキンスの「ディアルモンド製は磁力が強すぎてギターの音が吸い込まれる」という報告により、ディアルモンド製のピックアップからグレッチ製のピックアップ、フィルタートロンに変更。また、1967年にボールドウィン・ピアノに買収された際に統一規格の四角いピックガードに置き換えられ、1972年にはモデルのナンバーが6120から7660へと変更されました。

6120はグレッチのギター事業を再開した際、はじめに生産されたギターの1つであり新しい機能を加えたモデルやバリエーションが多く制作されました。ストレイ・キャッツのボーカル、ブライアン・セッツァーのシグネチャーモデルは、6120の改良モデルの中でも特に人気があり、知名度向上に大きく貢献しました。2003年には、1980年に失効していた「チェット・アトキンスの名前をギターに名付ける使用権」を再取得したグレッチはそれまで6120に付けられたナッシュビルの名前を変更。2003年以降に発売された6120モデルの多くはチェット・アトキンス・ホローボディと名付けられました。

6119 Chet Atkins Tennessean

1962年に発売された6119モデルは従来の6120モデルから一新され、厚さの薄いダブルウェイカッタウェイのボディを採用。ハイロートロンのピックアップ、色が塗られた実際には穴が空いていないフェイクのFホールが特徴的なギターとなりました。

Gretsch G6128 Duo Jet

グレッチ・デュオジェットは1952年に発売されたギター、「ギブソン・レスポール・ゴールドトップ」のヒットに対抗するべくグレッチ初のソリッドボディを採用して制作されました。デュオジェットの名前は当時高性能と話題だった航空機と、搭載された2基のダイナソニック・ピックアップが由来となっています。このモデルはグレッチで初めてヘッドストックとピックアップの選択スイッチとトラスロッドにアクセス可能なマスターボリュームを搭載したハイテクモデルとしてリリースされました。

Gretsch G6131 Jet Firebird

1956年に発売されたエレクトリック・ギター。初期のジェット・ファイアーバードは2基ディアルモンド製のシングルコイルピックアップとブロックインレイのマーカーが付けられていました。1950年代末には、ネオクラシック・サムネイル・フレットマーカーと2基のグレッチ製のピックアップ、フィルタートロンに変更。1962年にはボディがゴールドのダブルウェイカッタウェイに変更され、ビブラートの代わりにトレモロが実装されました。1971年にはボディを初期のシングルカットモデルに変更され、その後も調整されながら多くのバリエーションが制作されました。

発売された代表的なバリエーション

・G6131T 2基のフィルタートロンを備えたシングルカットモデル。

・G6131TDS  ピックアップがダイナソニックピックアップに変更されたシングルカットモデル。

・G6131TVP グレッチテールピースが付けられ、ピックアップがデュアルTVジョーンズパワートロンを備えたモデル。

・G6131T-TVP デュアルTVジョーンズパワートロンピックアップを備えたモデル。

・G6131MY 1基か2基のフィルタートロンのピックアップをオプションとして選ぶことが可能なダブルカッタウェイのマルコム・ヤングのシグネチャーモデル。2008年にリリースされ、2017年に再発売されました。

Gretsch G6136 White Falcon

1954年に発売されたフルアコースティックギター。制作当初はグレッチの販売、およびデモンストレーション代表のジミー・ウェブスターが1954年に開催されたNAMMショー向けの展示物として制作されました。NAMMショーでの評判を受けて同年に生産開始、翌年には販売されました。大きな特徴は17インチ、厚さ2.75インチとグレッチのギターの中で一番大きいサイズとハードウェアやピックガードなどの多くがゴールドで統一された高級感にあり、グレッチの他のギターと差別化されています。ホワイトファルコンは現在までに多くの変更が加えられたモデルが販売され、グレッチのギターの中でオリジナルとレプリカを含めて最も多くの売上を上げています。

NAMMショーで展示された当初は製造予定がなく「未来のギター」として展示されていたものの、展示されたホワイトファルコンを見た営業担当者から強い関心があったことから販売が決定。1950年から1960年にかけてグレッチはホワイトファルコンに微調整を加えながら改良を施していきました。指板に描かれた四角のポジションマークは1957年に半月形のインレイに置き換えられ、ピックアップはディアルモンド・ダイナソニックから1958年にグレッチが開発したピックアップ、フィルタートロンに変更。ブリッジは同社開発のメリタ・ブリッジからスペース・コントロール・ブリッジへと変えられました。1995年から現在にかけてはホワイトファルコンに2つのピックアップ、セレクタースイッチ、ボリュームノブが搭載されたブライアン・セッツァーブラックフェニックスモデルを始めとした多機能な記念モデルが発売されています。

Gretsch G6199 Billy-Bo Jupiter Thunderbird

G6119・ビル・ボ・ジュピター・サンダーバードはミュージシャンのボ・ディドリーに発案を元に制作されました。通常のアコースティックギターがライブパフォーマンスの邪魔になると感じたディドリーは、1945年にステージ上で飛び跳ねる妨げにならない長方形や台形の変形ギターを好み、ボ・ディドリービートと呼ばれる独特のリズムと併せて知名度をあげていきました。

1959年にディドリーがグレッチの従業員であるジュリアーノにグレッチのネックとハードウェアを使用し、ステージでジャンプしやすいギター制作を依頼したことによりジュピター・サンダーバード、キャデラック、シガーボックスの3本のギターが産まれました。その後、グレッチはギターと同じ形のボディの4弦ベース「Billy-Bo Jupiter Thunderbird Bass」、ビリーの長方形ギターをインスパイアした「G5810 Bo Diddley」、長方形ギターのミニチュアバージョンの「G5850 MiniDiddley」などのバリエーションも発売しました。

使用するミュージシャン(ギター)

・チェット・アトキンス
使用モデル、6119テネシアン、6120、6121、6122など

・ジョージ・ハリスン(ビートルズ)
使用モデル、デュオジェット、カントリージェントルマン、テネシアン

・ジョー・ウォルシュ(イーグルス)
使用モデル、ホワイトファルコン、デュオジェット、6120

・ボ・ディドリー
使用モデル、ジュピター・サンダーバード

・ブライアン・セッツァー
使用モデル、ナッシュビル、シルバージェット、ホットロッド

・ジョン・グッドサル (ブランドX)
使用モデル、プロジェット

・マシュー・アッシュマン(バウ・ワウ・ワウ)
使用モデル、ホワイトファルコン

・KT・タントール
使用モデル、ホワイトファルコン

・ジョン・フルシアンテ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)
使用モデル、ホワイトファルコン

・エルヴィス・プレスリー
使用モデル、6122

・ティム・アームストロング(ランシド)
使用モデル、カントリーモデル

使用するミュージシャン(ドラム)

・チャーリー・ワッツ(ローリング・ストーンズ)

・テイラーホーキンス

・アッシュ・ソーン

・フィル・コリンズ

・ダニエル・デイヴィソン(ノーマ・ジーン)

まとめ

今回の記事ではグレッチについて書かせていただきました。グレッチで発売されたギターは大きめのサイズが多く、大きさに裏付けされた安定感のある音色は現在も多くの支持を持つメーカーとなっています。繁栄や衰退の歴史の中でギブソンやフェンダーとはまた違った魅力のあるブランドとなったグレッチのギターに興味が湧いてきましたら、楽器店などで一度手にとってみてはいかがでしょうか。

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